Research

研究内容

量子コンピュータとは?

量子コンピュータとは?

「重ね合わせ」を使ったコンピュータ!?

現在使用されているデジタルコンピュータは情報を数字の"0"と"1"の組み合わせで表現し、それらを演算したり伝送したりすることで情報処理をおこなっています。この"0"または"1"で表される情報の単位をビットと言います。物理的には、例えばコンデンサに電荷がたまっている状態とたまっていない状態を"0"と"1"に対応させたりしています。

一方、量子コンピュータでは"0"と"1"に対応する状態のみならず、それらの「重ね合わせ」という状態が利用可能です。この重ね合わせ状態は、先ほどの例で言うとコンデンサに電荷が中途半端に(例えば半分)たまっている状態に対応するわけではありません。この「重ね合わせ」は量子力学特有の現象であり、実際に"0"と"1"に対応する状態が同時に存在していると解釈されるべきと考えられています。この不思議な現象は、かのアインシュタインをして量子力学の正当性に疑義を持たせるほどでしたが、現在では無数の実験により確かめられ、確立した概念となっています。このような重ね合わせを利用した情報の単位を量子ビットと呼びます。

量子ビットを使うと情報を並列的に表現することが可能です。例えば、従来のデジタルコンピュータで2ビットある場合、ある瞬間には"00"、"01"、"10"、"11"のうちどれか一つだけが実現可能ですが、量子ビットが2つある場合には、00"、"01"、"10"、"11"のすべてが同時に存在することが可能です。この場合の情報量の差を単純に比較すると1:4になります。ビット数が増えるとこの差は倍々にどんどん大きくなります。そのため、量子コンピュータは従来のデジタルコンピュータに比べ指数関数的に大きな情報量を表現できると考えられています。他方で、量子コンピュータの計算結果を人間がわかる形で取り出す場合、情報を量子ビットから通常のビットに落とし込まなければなりません。そのため、量子コンピュータを使っても多数の異なる計算を単純並列的に実行し、その結果をすべて取り出すということはできません。そのかわりに、計算過程で重ね合わせ状態を利用しつつ、計算結果をうまくビットに落とし込む必要があります。そのようなアルゴリズムは実際に複数発見されており、量子コンピュータは特定の問題においてデジタルコンピュータの性能を大きく凌駕することが知られています。

イオントラップとは?

原子1個をつかまえて操作する技術

イオントラップは原子一つ一つを空間的に捕獲し、並べる技術です。原子をイオン化することで、その運動を電気や磁気で制御し、制限することが可能になります。加えて、レーザーを用いると、光がもつ圧力を使ってイオンの運動速度を下げることができます。これをレーザー冷却といいます。その結果、イオントラップの中では各イオンをほぼ完全に停止した状態で規則正しく並べることが可能です(右写真)。

イオントラップとは?

イオントラップ型量子コンピュータに向けて

原子1個1個が量子ビット

イオントラップとレーザー冷却により真空中に捕獲されたイオンは外部の環境から隔離された裸の原子です。その挙動は量子力学による予想と大変よく一致します。そのため、このようなイオンを使えば良質な量子ビットをつくることが可能です。事実、イオントラップを使った量子コンピュータの研究は30年以上前から続けられており、多くの重要な研究結果が得られています。近年では、イオントラップ型の量子コンピュータを遠隔で使用できるクラウドサービスを提供する企業も現れました。一方で、イオントラップ型量子コンピュータが扱える量子ビット数を今後増やしていくためには数多くの課題を克服していく必要があるのも事実です。我々は、イオントラップ型量子コンピュータをさらに進化させるためにこれらの課題の解決に向けて研究を進めています。

Introduction

研究課題紹介

研究開発項目1:イオントラップの量子光接続に関する研究開発

課題推進者:高橋優樹(OIST)・長田有登(東京大学)

空間的に離れたイオントラップに捕獲されたイオンを光子を使って相互に接続する研究を行います。これにより、モジュール化されたイオントラップを繋ぎ合わせることで量子コンピュータを拡張することが可能になります。

イオントラップの量子光接続に関する研究開発

研究開発項目2:超伝導マイクロ波回路を用いたイオントラップの開発

課題推進者:野口篤史(東京大学)

イオントラップに用いられてきたレーザー光による量子制御の精度の壁を打ち破るべく、超伝導回路によって増幅されたマイクロ波を使ったトラップイオンの量子状態制御技術を開発しています。

超伝導マイクロ波回路を用いたイオントラップの開発

研究開発項目3:振動自由度を用いた量子誤り訂正符号実装のための研究開発

課題推進者:豊田健二(大阪大学)

イオンの量子的な振動の一つの自由度には、通常の量子ビットよりも多くの情報を蓄えることが可能です。その情報容量を利用して、誤り訂正を実現することを目指します。

振動自由度を用いた量子誤り訂正符号実装のための研究開発

研究開発項目4:高性能イオントラップ作製・評価技術およびクラウド化基盤技術の確立

課題推進者:早坂和弘(NICT)・杉山和彦(京都大学)・鳴海一雅(QST)・田中歌子(大阪大学)・豊田健二(大阪大学)

高性能イオントラップの作製・評価技術の確立とイオントラップ量子コンピュータクラウド化に必須となる自動化技術、遠隔操作技術の実装を目的とした研究開発を実施しています。

高性能イオントラップ作製・評価技術およびクラウド化基盤技術の確立

研究開発項目5:イオントラップのための集積化光回路に関する研究開発

課題推進者:横山士吉(九州大学)・長田有登(東京大学)

光回路素子の開発と光回路のイオントラップへの組み込みの研究により、イオントラップ量子コンピュータを光ファイバと電気配線を接続するだけで使える安定で量産しやすいデバイスにすることを目指します!

イオントラップのための集積化光回路に関する研究開発

研究開発項目6:イオントラップ多重化のためのイオン輸送・配列技術

課題推進者:長谷川秀一(東京大学)

量子ビットとなるイオンを微細加工電極で生成される電磁場により自由に動かすことで、量子コンピュータの規模の拡張を目指します。あわせて複数種のイオンを同時に捕獲・制御することで計算時間の拡張に貢献します。

研究開発項目7:単一イオンと単一原子の量子インターフェース開発

課題推進者:土師慎祐(大阪大学)

冷却イオンと中性原子の量子インターフェースを開発することにより、イオントラップ型量子コンピューターの量子ビット数をより柔軟かつ効率的に拡張することを目指します。

単一イオンと単一原子の量子インターフェース開発